「伝える」ことの難しさ

【2018/11/13】

私の趣味の一つに「釣り」があります。
追々お話しするかもしれませんが、結構気合い入れてやっていた時期もありました。
今は昔ほど釣りに行けているわけではありませんが、それでも釣りが大好きなのは間違いないです。

釣りと言っても色々なジャンルや対象魚があり、それぞれ使う道具や釣り方が全然違います。ですので、違う魚を釣ろうと思うと、それだけで別な釣具が必要だったりします。

そのせいで奥様が釣りをされない場合は、
「同じようなものがこんなにあってどうするの!」
なんて、年中怒られてしまうことになります。

ヘラブナ釣りでの「ウキ」


ヘラブナ
釣りの中でも、「ヘラブナ釣り」は結構奥が深いと言われます。
冒頭の写真のような、釣りをされない方が「釣り」と聞いた時に、普通に想像されるような釣り方で釣っています。

それだけなので大したことないじゃないかと思われるかもしれませんが
・水深5mの池で、真夏に、3mの竿を使って3mの深さを釣る場合
・同じ水深5mの池で、真冬に、5mの竿を使って1mの深さを釣る場合
では、釣りの考え方が全く変わってくるのです。その考え方を吸収しつつ、魚の状況や魚がエサに食いついたのを表現するのが「ウキ」の役目なのです。
ヘラブナ釣りで使うウキは、特に「へらウキ」と呼ばれます。
へらウキには色々なサイズがあります

この「へらウキ」ですが、ある程度のものはほぼ手作りなので、へらウキを作る職人さん(ウキ作者と言います)がプロアマ共に多くいらっしゃいます。
釣り人の方も、自分の好みに合わせて同じ作者のウキを数多くそろえて使い分けることが多いです。

先日、なんとなく色々なウキ作者のwebサイトを見ていたら、あることに気づきました。
それは「ビギナーに優しくない」ということでした。
それぞれのウキ作者は前述のような様々な釣り方に対応するために、色々な種類のへらウキを作っています。しかし、こんな釣り方にはこのへらウキを使うのがいいですよ、というような提案はほとんど見当たらないのです。

Webサイトに載っているのは、へらウキのサイズや素材です。
食事用のスプーンに例えるなら、
「全長15cm、柄の長さ11cm、素材アルミニウム」
とだけ書かれているようなものです。アイス食べるために使うのか、コーヒーかき混ぜるために使うのか、それだけだとよく分かりません。

こんな感じなので、ビギナーから中級者の釣り人が
「上手なあの人が使っている、憧れのウキ作者のウキをそろえたい」
と思っても、いったい何から買えばよいのかよく分からないということが起きてしまいます。
周りの人に勧められるままに買ったものが、実は自分が求めていたものとは違っていて、そのウキを使っても全然釣れない、なんていうことが起きてしまいます。

その結果として、「このウキは釣れないからもう買わない!」なんてことになりかねません。
これは釣り人にとっても不幸ですが、ウキ作者の方もリピーターとなりうるお客様を失ってしまうことになります。

システム開発も同じかも

自戒を込めて書くのですが、システム開発でもお客さまに対して同じようなことをしてしまっているような気がしています。また、お客さま側からもシステム開発会社の方に、本当に大事なことが伝えきれていないということがあるように思います。

導入しようとしているシステムの本当の利用目的がお客さまと共有できず、結果的にシステムの完成が遅れてしまったりすることがあります。
最悪、プロジェクトがやり直しになったり、損害賠償となってしまう例もあります。(某大手銀行のプロジェクトのように)

このような事態を防ぐには、ありきたりなことですがお客さまとシステム開発会社との意思疎通を十分に行う、ということに尽きると思います。

私たちシステム開発側からは、過去の導入経験を元に色々とご提案を行います。ある意味、システムの定石という「当たり前」のことを元にご提案をしながら開発を行っていくわけです。
それを元にお客さまからご意見をいただきながら開発を進めていきます。

一方、お客さまの業務の常識が、実はお客さまの会社でしか行われていないということが結構あるのです。このようなお客さまの中の「当たり前」も、システム開発会社に「伝えて」いただかないと、仕様の漏れが発生してしまうことになります。

そうです。お互いの「当たり前」は、口に出さない限り伝わらないのです。
開発にある程度の時間がかかるシステム開発には、手戻りは致命的です。ですので、手戻りを避ける意味でもお互いの「当たり前」を面倒でも確認し合うのが、システム開発では重要ではないか?と思うのです。

先ほどのウキ作者の話も同じだと思いますが、自分の「当たり前」は案外相手には通じていないと考えて、「当たり前をお互いに伝えあって、理解しあう努力」が大事なんだろうと思います。